事業再生を検討する企業は、一般的には、ほとんどが赤字企業ですから、過去数年間は法人税を支払ったことがないという企業が多いと思われます。
しかし、赤字企業であっても、事業再生を実行したとたん、本業が軌道に乗る前に多額の法人税が課される危険性があります。
■ 事業再生における債務免除益の落とし穴
事業再生において、企業が「債権カット」などによって、借入金や買掛金の支払を免除された場合、「免除益」が発生します。たとえば1億円の借入金の支払を免除された場合、企業には1億円の「債務免除益」が発生します。
この債務免除益も利益(益金)ですから、この利益(益金)には法人税が課されます。法人税率を23%と仮定した場合、この企業は1億円の23%である2300万円を納税しなければなりません。ご存知のとおり、債務免除を受けても、企業には1円も現金は入ってきません。それにもかかわらず債務免除を受けた企業は2300万円の納税資金を用意しなければならないのです。
「事業再生の時には、債務免除益について課税されないような特例が何かあるでしょう」と質問されることがあります。
しかし、この債務免除益を課税しないという特例はありません。そのため、繰越欠損金の使用といった工夫を積み重ねて、納税額を極力小さくする対策が必要となります。
■ 債務免除益課税対策の実例
先ほど申し上げましたとおり、発生した債務免除益を課税しないという特例はありません。そのため、債務免除益に課税されないためには、その債務免除益の金額に見合った「損失」を計上したり、過去の「損金」を利用したりする必要があります。
どの「損失」を計上するか、どの「損金」を利用するかを検討することを「債務免除益課税対策」と呼び、事業再生における重要な課題の一つといえます。
通常は、税理士の先生を交えて、対策を検討することになります。
私的整理でも法的整理(民事再生)でも使える「損失」の計上には、以下のようなものがあります。
●資産の除却・処分による損失計上
●回収不能の金銭債権の放棄による貸倒損失の計上
●粉飾決算(仮装経理)があるときはその修正による損金の計上
こういった「債務免除益課税対策」を怠った場合や、債務免除益がいわゆる「期ずれ」となって、予測していた「損失」計上とずれるといった事態が生じますと、事業再生は実現したものの、資金繰りの悪化が生じる、ということになりかねません。
「債務免除益課税対策」は、事業再生における重要な課題であることを明記して頂ければと思います。