■ 法人の破産≠経営者の破産
法人の破産をする場合、ほとんどのケースで「経営者である私は、銀行からの借入の連帯保証をしていますし、破産の責任をとって自己破産すべきでしょうか?」と聞かれます。
答えは「個人の破産も最後の手段。任意整理や民事再生など、他の手段も検討した上で、結論を出しましょう」です。法人の破産イコール経営者の破産ではない、と考えています。
たしかに、通常、法人の金融機関からの借入等について経営者が連帯保証をしているため、経営者も破産する、ということがよくありました。
ただ、金融庁が平成25年12月に「経営者保証に関するガイドライン」の積極的な活用について金融機関等に要請し、当ガイドラインには法的拘束力はないものの、遵守されることが期待されていることから、当ガイドラインに則った経営者保証の回収が図られますので、「法人の破産≠経営者の破産」ということは重要かと思います。
■ 具体例で見る「法人の破産と経営者の注意点」
典型的なケースで経営者の注意点を見ていきます。
<ケース>
株式会社Aの代表取締役Bは、A社のメインバンクである甲銀行(貸付残高1億)に対して連帯保証をしており、また甲銀行○支店にB個人の生活費の預金口座も作っていました。Bは、乙銀行の住宅ローンを利用して自宅(マンション)を所有し、B個人名義の車と生命保険も有しています。Bは、連帯保証のほかに、親族から個人的に100万円を借り入れて、A社の運転資金に回していました。
A社は、甲銀行の負債(1億)ほかに負債が1億あり(合計2億)、弁護士に委任して、○年○月○日に「破産する」旨の通知を出しました。
<注意点>
① ○年○月○日に「破産する」旨の通知を出しますと、甲銀行は、約定にしたがって、連帯保証人であるBに対して「一括して保証債務1億円を返済せよ」と請求し(期限の利益の喪失による一括請求、と言ったりします)、B個人の預金口座を凍結し、残高を相殺します。
B社長からしますと、甲銀行のB個人の預金口座の残高が相殺されるだけでも大きな不利益ですが、その預金口座を生活費の引き落としに使用していれば、さらに大きな不便が生じます。この点は注意が必要です。
B社長は、債権者ではない銀行の口座は使用できますし、あらたに口座を開設することもできます。
② B社長が甲銀行との間で、残高1億円の連帯保証債務について、話合いをしようとする場合、財産目録と債権者一覧表を作成して開示する、という点にも注意が必要です。
B社長は、すぐに自己破産ではなく、まずは甲銀行と分割弁済などについて話し合おうとします。
しかし、甲銀行としても、B社長個人が、どの程度の資産を有しているのか、A社が自己破産した後の収入見込みは、といった疑問をもっていますので、話合いはなかなか進みません。
B社長の財産目録・債権者一覧表(サンプル) | |||
【資 産】 | 【負 債】 | ||
項 目 | 時 価 | 項 目 | 残 高 |
①自宅(マンション) | 4000万円 | ①住宅ローン | 5000万円 |
②預金 | 10万円 | ②連帯保証債務 | 1億円 |
③車(B名義) | 50万円 | ③親族からの借入 | 1000万円 |
④生命保険(保険契約者B) | 30万円 |
このような財産目録と債権者一覧表を開示しますと、甲銀行は、「もしも、B社長が自己破産したら、破産諸費用や自由財産を考慮すると、配当額はおおよそ○○円の見込み」という予想を立てることになります。
そして、B社長が、甲銀行と債務の分割払いについて話し合う場合、「すくなくとも破産という清算を行った場合の配当(予想)額○○円を越える金額は払うこと」が最低条件になります。これを「清算価値原則」と呼びます。
③ また、「破産すると全財産が取られてしまう」と思い込み、車(個人名義)を安く知り合いに処分したり、生命保険を解約するケースもありますが、注意が必要です。
仮にB社長のケースで、B社長が破産したとしても、99万円を上限として自由財産の拡張が認められておりますので、「破産すると全財産とられる」というのは誤りです。
また、破産直前に処分しても、破産管財人の調査は実施されますし、かえって不当に安く売却すると否認されかねません。
④ 自宅を維持する方法には、B社長がマンションを親族や知人に適正価格で売却して、賃貸借により居住を継続する、B社長が民事再生を申し立てて、住宅ローンは全額支払い、その他の負債(連帯保証債務)はカットした分を分割払いにする、という方法が考えられます。自宅は、ご家族の生活にも関わる重要な問題ですので、慎重にどの方法にするのかを検討すべきです。
⑤ その他、破産する場合の注意事項
当事務所では、自己破産を申し立てる際に、注意事項の説明として「自己破産手続きにおける注意事項」を書面を基に説明しています。