中小企業の事業再生 ~事業譲渡スキーム① 第二会社による事業譲渡

当事務所では、名古屋市内にある印刷業者(従業員5名)の自己破産と事業譲渡を組み合わせた事業再生スキームを実行しました。

 

約10年前、知り合いからの紹介で印刷業者の息子さんから相談を受けました。

 

「名古屋市内で父親や親戚が印刷業を営んでいる。従業員は自分を含めて5名。代表取締役は父親だが、取締役に親戚がおり、会社にお金を貸しているなど争いが絶えない。しかも、本業の印刷業はニッチな分野に強みがあるものの、右肩下がりの状況。業績は赤字続きであり、銀行から運転資金の追加融資は困難との回答があったばかり。どうすればいいでしょうか?」

 

検討を重ねましたが、親族間の争いが絶えず、従業員の士気も下がっており、しかも赤字が2期連続続いており、債務超過が膨らんでいく状況でした

 

しかし、息子さんは「印刷業は続けたい」という強い希望を有していました。

その理由を尋ねると「約20年、印刷業を続けてきており、ニッチな分野に強みがあり、専用の機械は古くなっているが、修理すれば使用できる。同業他社は減少しており、専用の機械の製造も中止されているから、営業を強化して、ニッチな分野に特化すれば利益は出ます」とのこと。

 

 当事務所は「現状の会社は自己破産により清算+事業譲渡により別会社が印刷業を譲り受けて、事業継続」というスキームを計画しました。

 

 現状の会社が自己破産することに伴い、銀行からの借入等の連帯保証人であった父親(代表取締役)も自己破産することになりました。

 その結果、親族間の争いは収束していきました。

 

 問題は「破産する会社の事業を譲渡する」という点でした。

 

 まずは中古機械業者やリサイクル業者に依頼して、中古機械や什器備品類の現状の価格を査定してもらいました。

 次に事業の価値の査定ですが、これは税理士・会計士の先生に査定を依頼しました。しかし、過去3期分の決算書等の会計資料から査定しようとしても、赤字続きのため価値がつかない(0査定)という結果となりました。

 ただ、これでは破産する会社の管財人からすると、「事業を不当に安く売った」として否認されかねません。

 そこで、税理士・会計士の先生と協議して、過去3期分の決算書等の会計資料を再度精査した上で、今後見込まれる利益を予測して価値を査定することになりました。

 最終的には、事業価値+中古機械・什器備品類の価格=譲渡価格を算出しました。

 

 息子さんは新しい会社を設立し、譲渡価格を破産する会社に支払い、印刷事業と中古機械類を譲り受けました。

 破産する会社は、譲渡価格を破産費用に充てて破産申立を実行しました。

 

 破産申立後、破産管財人に事業譲渡をするに至った経緯、譲渡価格の算定根拠を丁寧に説明しました。破産管財人にご納得いただき、否認されることなく、新しい会社は譲り受けた事業を継続しました(従業員5名の雇用は継続)。

 その後、新会社はニッチな印刷事業に特化、さらに息子さんが営業を強化することによってV字回復を果たしました。

 

 新会社は設立から約10年が経過しましたが、その後も順調に業績を伸ばしておられます。

 

 ポイントはいろいろあるのですが、振り返ってみますと「事業譲渡の価格の査定」が一番のポイントだったと思います。

 譲り受ける側は「事業価値を抑えたい」と考えますので、どうしても「赤字続きだし、悪い要因があるから、事業価値は0に近い」と主張されます。

 しかし、その後に破産する場合(破産しないとしても債権者が詐害行為取消を主張する場合もあります)、破産管財人が否認権を行使するリスクがあります。そうなると、事業継続に支障が出てしまいます。

 

 今後、事業譲渡による事業再生を検討されている方は、「事業譲渡の価格の査定」については税理士・会計士といった専門家にご相談の上で、慎重に進められることをお勧めします。

 ご不明な点などございましたら、ご相談ください。

代表弁護士  阪野 公夫

 

 

 

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